認知症用のサプリメントは、症状が軽いうちから始めた方がいいが、ある程度進行してからでも効くことはある。

14歳の小柄で痩せたトイ・プードルは、診察台の上で、興奮気味だ。顔に手を近づけただけで、咬もうとする。抱こうにも嫌がって、ジタバタする。鳴き声を上げる。慎重な扱いが必要だ。脳の中のストッパーが外れたみたいに、放っておけば、駆け出してしまいそうな盛り上がり方だ。覚醒しすぎている。この状態を過覚醒という。

自宅では、左回りにグルグルと歩くらしい。前脳症状だ。前脳とは、大脳と間脳のこと。間脳とは聞き慣れない用語だと思うが、大脳と中脳の間にある。間脳は、自律神経やホルモンの調節をしている。過覚醒と旋回は、認知機能が低下したときによく見られる症状だ。若い頃にできていたことができなくなり、いろいろと我慢がきかなくなってくる。

この段階では、認知症ということになる。まずは、認知症用の、抗酸化成分の配合されたサプリメントを処方した。2週間後、左旋回はしなくなったとのこと。うまく効いたようだ。こんな風に、サプリメントに良く反応する犬もいる。一方で、まったく様子が変わらない犬もいる。

同時に、背景にも目を向ける必要がある。別の脳疾患の症状が、認知機能低下という姿で、外に現れているだけかもしれない。認知症だと思っていたら、しばらくして、けいれんを起こす、といったことは、たまにある。脳腫瘍が隠れている可能性も考えながら、経過を見ていくことにした。