犬の ”ふるえ” を診る。特発性全身性振戦症候群をめぐる現場の判断。

疑いようのない明らかな ”けいれん” でなければ、若い小型犬が全身を小刻みに震わせているとき、特発性全身性振戦症候群を疑うことが多い。これは、かつてホワイトシェイカーシンドロームなどと呼ばれ、小脳を中心とした髄膜脳炎様の病態であると報告されている。髄膜脳炎とは、脳や脊髄を覆う髄膜と脳の実質に炎症が起きる病気で、免疫の異常が関与すると考えられている。興奮やストレス、活動によって震えが強くなることがあり、眠っているときやリラックスしているときには軽くなったり、消えたりする。手足が滑ったり、歩き方がぎこちなくなったりすることもあるが、意識が障害されることはない。

最初に飼い主から詳しく話を聞いて、震えのきっかけとなりそうな不安感や恐怖感など、心理面の要因を除外する。そのうえで、血液検査、レントゲン検査、超音波検査、尿検査、神経学的検査など、最低限の一般検査を行う。こうして中毒だとか代謝性疾患だとかがないかどうかを調べる。代謝性疾患とは、栄養素やエネルギー、ホルモンなどを体内で利用・調整する仕組みに異常が起きることで生じる病気の総称である。こうしてひとまず「首から下」に震えの原因となる異常がないことを確認する。

ただ、この特発性全身性振戦症候群は確定診断が難しく、すべての例で自己抗体や炎症が証明されているわけではない。さらに、ここに原因不明の髄膜脳炎という別の概念で定義される病態とも重なる部分があり、実に複雑な様相を呈している。症状、一般検査、治療に対する反応などを組み合わせて実際の現場での評価にもとづいて診断される疾患であり、高度な医療施設を受診しても必ずしも確定診断できるとは限らない。症状が治まって来院したときには震えが認められない場合はなおさらだ。

MRIや髄液検査を行うことには当然メリットはあるが、症状が消えた犬に負担のかかる検査をしてまでやることかというと、結局、治療方針が変わらないということもある。確定診断には至っていなくても、それで治療ができないかと言われればそうではないので、現時点で得られている情報から、最も可能性の高い疾患を暫定的に想定し、経過を慎重に観察しながら投薬や追加検査の必要性を判断する、という姿勢で臨むようにしている。