首がピクピク、頚部痛。薬で軽快しても、X線検査でわかることは少ないので、疾患が潜んでいる可能性を飼い主に伝える。
6歳の小型犬MIXは、首のあたりがピクピクするということで来院した。動画を見せてもらったら、確かにその通りだった。動画の中で、犬自体は静かに佇んでいるのだが、首の左側の皮膚だけがピクッピクッとリズミカルに動いていた。ミオクローヌスだ!「頚部痛」というキーワードが瞬時に頭の中に浮かんだ。身体検査では、手足に麻痺はない。首を触って明らかに痛そうな反応は示さない。X線検査では、はっきりとした異常は見られない。重症ではないようだ。一般的な消炎鎮痛剤を処方し、翌日すぐに改善した。
ここで、X線検査を行う意義を考える。CTやMRIが登場してから、単純X線検査で診断できる頚部痛の原因は、きわめて少ないことが明らかになっている。ところで、「単純」X線検査と表記しているのは、「造影」X線検査と区別しているからで、造影すれば、もっとわかることが増えるのだが、ここでは除外する。つまり、単純X線写真に異常が見られなくても、何らかの疾患が隠れている可能性は、十分にあるのである。ということは、「異常はないので、痛み止めで様子をみましょう。」で済ませることはできないのだ。
頚部痛に関して、単純X線検査では、5つの疾患を診断できることが知られている。頚部痛の患者が来院したら、X線検査をして、この5つの疾患があるのかないのかをまず確認する。なかった場合、飼い主への説明の際に、それでも他の疾患があるかもしれないと、強く念を押す。この犬のように、消炎鎮痛剤の内服で、表面上、症状が改善したとしても、核心的な疾患が存在すれば、そのうち再発するかもしれないし、もっと重い症状が現れるかもしれない。
飼い主に、今後の選択肢を伝える。今の段階で、MRIといったさらなる検査に進むのか、あるいは、ひとまず様子を見て、再発したらMRI検査を受けることを検討するのか、はたまた、再発のたびに薬で対応するのか。すぐには答えは出ないだろうから、飼い主に考えておいてもらう。どれを選んでも、得られるものと失うものがある。今回の犬の場合は、しばらく様子を見るということで決着した。