脳脊髄液の流れには、柔軟性がある。

脳と脊髄は、ひと続きの構造だ。脊髄をしっぽの方までたどって行くと先細りになる。その表面を覆っている膜は、最終的に糸のようになって、しっぽの骨に繋がれる。こんな形をしている脳と脊髄は、その周りを液体で囲まれている。岩場に根を張った海草のように、水の中をぷかぷかと浮かんでいるような状態だ。

脳と脊髄を囲む液体は、脳脊髄液と呼ばれる。脳の中の脳室というところで血液から濾過されて作られる。そこから脳の表面や脊髄の中、周囲に向かって流れていく。最終的に、脳のてっぺんに集まって、血管の中へ戻る。このように、脳脊髄液の流れの方向性は、一方通行であると、これまで考えられていた。

この脳脊髄液の循環の常識は、ついに覆された。全体として、一定方向の流れはある。それとは別の事実が判明した。脳脊髄液は、脳内のあちこちで作られ、毛細血管やリンパ管からあちこちで吸収される。心臓や呼吸の動きに応じて、脳や脊髄の周りで行ったり来たりの動きをする。排出経路の一つに、鼻の中に抜ける通路がある。匂いを感じる神経である嗅神経を伝って、頭蓋骨の外に出て、鼻の粘膜からリンパ管に吸収される。

脳脊髄液の循環動態の新しい概念の発見だ。水頭症はじめ、脳神経疾患の病態の理解が進むことが期待されている。