人間のメニエール病に似ている病気を、犬では前庭障害と言う。脳に異常がないと判断されれば、三半規管だけのトラブルを疑う。
他院で処方された、かゆみ止めの薬を飲んでから、ふらつくとのこと。14歳のトイプードルは、アレルギー性皮膚炎を持っているようだった。薬が原因でふらついているということであれば、内臓に影響が及んだのかもしれない。そう考えて、血液検査をした。しかし、異常な所見はなかった。
とすると、別の原因か。飼い主と話していると、あることに気づいた。診察台の上で、この犬は、なんだか右の方を向こうとする。両手で支えて動きを止めて顔をじっと見た。あまりはっきりしないが、眼球がゆっくりと右の方へ流れているようだった。右へ流れるから、自分で元に戻そうとする。こうして、眼球が横方向に、パッパッと動くことになる。水平眼振だ。
耳の中の、さらに奥にある三半規管にトラブルが起きている。手足の反射と反応と見てみた。異常はない。診察台から降ろして歩かせてみた。右に回りながら歩く。しかし、歩幅は普通だ。小脳の機能は障害されていないようだった。
末梢性前庭障害。脳の異常は今のところ疑われず、三半規管だけの障害と考えられた。人間で言う、メニエール病に似ている。眼球が勝手に動いてしまって、この犬は、乗り物酔いをしているような気分だろう。きっと、気持ちが悪くて、それで食欲がない。めまいに効く薬を処方して、また来てもらうことにした。