不安のない診察のために。~fear free pre-visit pharmaceuticals~

「怖がって震えている動物に、なぜ何も対策をせずに処置をするのか。」

アメリカの動物病院では、犬や猫に、躊躇なく鎮静剤を使うことが知られている。アメリカでは、大型犬が多く、保定に人員を要することと、動物に優しくというコンセプトが浸透していることが、その要因だそうだ。日本では、小型犬が多く、ある程度動いても保定ができるため、その必要に迫られることが少ない。加えて、薬が効くまでの待ち時間、鎮静のかかった動物を観察するための人員の確保、飼い主への説明、費用といった壁に阻まれて、早めの段階での鎮静剤の使用は、ほとんど行われていないのが現状だ。

デメリットは、確かに挙げればたくさんある。しかし、メリットも大きい。動物は、不安感から攻撃的になることがある。動物の安全だけでなく、スタッフの安全や、適切な検査や処置ができる。それらを優先して、鎮静剤や抗不安薬を、早めの段階で使用する流れが、この日本にもやって来ている。

高齢の場合、薬の効き方や副作用の現れ方に対して、逆にこちらの不安感が募るのも確かにある。手始めに、当院では、普通の診察の際に、攻撃的で手が付けられない、若い犬や猫に限定して、抗不安薬を使ってみることにしている。実際の使い方は、家を出る2時間ほど前に薬を飲ませてもらって、落ち着いたころに移動を開始してもらっている。

来院したときには、不安感は多少和らいでいるような印象がある。処置や検査の際に、逃げようとする行動は見られるが、目つきはなんだか無関心のようで、抵抗が弱い気がしている。まだ数例で試しているだけだが、確実にストレスが軽減された様子で、良い感触だ。薬の種類や量は、個体差があるので、まだまだ手探りだ。しかし、何を差し置いても、やはり動物のために、基本として使っていけるようにしていきたいと思っている。