人間への従順性には、2通りある。

従順とは、おとなしく、素直で、逆らわない性質や態度のことを言う。自己主張しないとか、他人の言いなりだとか、人間界では、ネガティブなニュアンスで使われることのある言葉だ。一方、人間以外の動物界ではどうだろうか。動物での「従順性」とは、「家畜化を通じて、野生動物から野性が取り除かれることにより、家畜で顕著に観察されるようになった性質」を意味する。

「家畜化」とは、「動物の繁殖をコントロールすること」を言う。「家畜」とは、「人間にその繁殖をコントロールされた動物」のことだ。つまり、「従順性」は、「人間にその繁殖をコントロールされることで、野性が取り除かれて、動物に観察されるようになった性質」と、言い換えることができる。

この「従順性」には、2つの方向性がある。人間から動物へ。そして、動物から人間へ。人間が接近や接触をしても、それを避けずに受け入れる性質を、受動的従順性と言う。逆に、人間の方へ自ら接近や接触をしていく性質を、能動的従順性と言う。

前述の「家畜化」によって、動物に現れる身体的・精神的変化を「家畜化症候群」と呼ぶ。「従順性」は、この家畜化症候群のうち、精神的変化の中に含まれる。では、この従順性を成り立たせるメカニズムは何か。2つの説が提唱されている。一つは、「神経堤細胞仮説」。もう一つは、「海馬や偏桃体を含む辺縁系が関与するとする説」。いずれも、受動的従順性を支持する仮説だ。