背景にある、かゆみのストレスを抑えて、あえて距離をとる。アレルギーを持った、怒った猫への対処法。
2歳のサイベリアンが、最近、飼い主に対して威嚇するようになったという。しかし、特段、驚くほどのことではないと思った。これまで、病院のホテルで預かることがあったとき、ケージに近づくと、「シャー」としかめっ面で無声音を発するのが当たり前の姿だったからだ。でも、自宅ではそういうことは、今までまったくなかったらしい。元々デリケートな性格なのだろう。いつもと違う場所だと気が立つ。それが、ここにきて、落ち着いているはずの自宅で、家族に対して行動が変わった。
この猫は、アレルギーを持っていた。おそらく食物アレルギーも、アトピーも。今回の受診時は、目ヤニがいつにも増してひどかった。目がかゆくてイライラしているのではないか。それで怒っているのではないか。飼い主は、そう考えた。いつものように、爪切りを依頼され、同時に、アレルギーを抑える注射も打ってほしいとのことだった。診察台の上の猫は、ピリピリしていた。
そっとエリザベスカラーを首に巻き、右手、右足、体の向きを変えて、左足、左手の順に、そっと爪を切った。攻撃が発動されるギリギリのラインだった。だが、その後に抗アレルギー剤の注射を打とうとしたときに、激怒した。犬歯と爪をむき出しにした。我慢の限界だったようだ。爪は短く鈍角に切られたばかりだったので、幸いにも有効な武器としての機能は果たさなかった。瞬間的に注射を接種して、ケージに収めた。
飼い主には、自宅で目ヤニの対処として、毎日、眼軟膏を塗ってもらっていた。いつの日か猫は怒るようになった。かゆみで不機嫌なところ、それをきっかけに火がついた。そういう経緯だ。2日後、抗アレルギー剤が効いてきたのか、別猫になったかのように、スリスリ、ゴロゴロ。かゆみが治まって気持ちが和らいだようだ。預けられている間に、ある程度ほっとかれたこともよかったのかもしれない。眼軟膏は、疑心がほどかれてくるまで、しばらくお休み。かゆみという、背景にあるストレスに目を向けることも大切だ。