高齢犬の様子の変化を、飼い主は、老化と思うことがほとんどだ。脳神経系の老化と病気を分けるものとは何か。
急にうつむき加減になって、グルグル回って、食欲がないとのことでやってきた15歳のトイ・プードル。最初にその姿を見て、なんだかいつもと違うと思った。動きに俊敏さがなくなっている。これまで、診察台の上に乗せると、嫌がってすぐに飼い主に飛びついていたのに、身体検査をしていても、全く抵抗しない。別の犬かと思ったほどだ。
他にもおかしな点がある。顔が左に向こうとする。右の前足の反応が鈍い。このように、初見で気づいた症状は3つ。性格の変化、左旋回、右前肢不全麻痺。疑うのは、左前頭葉の障害だ。飼い主は、この変化を老化だと思っていた。認知症だとも。そう思うのも無理はない。なにせ15歳。年を重ねて穏やかになって、動きがゆっくりになった。そのように思ったにちがいない。
脳神経系は、老化によって、わずかに機能は低下するが、自ら補おうとする力がある。脳にはそもそも必要な数を超える神経細胞が存在し、老化で数が減ったとしても、残っている細胞が新たに回路をつくったり、新しく細胞がつくられることもある。なので、トレーニングをすれば、反応や動きに正確さを取り戻すことができるとされている。
脳神経系は、老化に適応する組織なのだ。老化だけが原因で、旋回をすることもないし、麻痺が起きることもない。認知症でさえ、れっきとした病気であり、老化ではない。つまり、この犬の脳神経系には、老化は多少あるのだろうが、それを超える異常事態が発生していると考えるのが妥当なのだ。それは、神経を壊す何か、神経を圧迫する何か、神経への血流を阻む何か。何が潜んでいるのだろう。。。