見た目は皮膚病だったのだが、どうも違う気がする。皮膚に何かを感じているようだった。神経の痛みを和らげる薬で落ち着いた。
自分の背中や腰のあたりの皮膚を激しく咬む12歳の猫。患部の皮膚は、ベロリとめくれていた。ノミがいたので、ノミの駆除をしたが、それでも症状は治まらなかった。細菌性の皮膚炎の可能性に対して抗生物質を投与しても、変わらなかった。残すは、アレルギーか、神経の疾患か、行動の問題か。これは長くかかるぞ、と思った。
その猫は、頭や首のあたりを触られる分には抵抗しないのだが、患部の近くに少しでも手が触れると、気が狂ったように咬みついて来る。というより、患部に対して執拗に攻撃を向ける。診察のときに、その行動を目撃したとき、面食らった。常軌を逸していると言ってもいいくらい、異常な執着で自らを傷つける。
抗アレルギー剤を使ってみると、咬む行動は減り、皮膚は少し改善はするのだが、それは、なんとなく良いかもといった印象程度で、パキッと治るわけではない。皮膚に起きている炎症が、表面上、ただ軽快しているだけなのだろう。ピントがずれている気がした。
アレルギーを完全に否定はできないが、おそらく、てんかんや知覚過敏があり、そこから自傷行為が繰り返され、皮膚炎がひどくなった。それがまた痛みや違和感を生じ、さらに自分で咬んで悪化させる。脳の神経に、そういう回路ができあがってしまったように思えた。こうなると、ニワトリが先か卵が先か、である。原因がどれかを決めることに意味はない。とにかく痛みや異常な感覚を和らげて、不安な感情を鎮めてあげる。そういうふうにしていたら、情緒は安定して、皮膚を咬む行動は減ったようだった。