自律神経に作用する甲状腺ホルモンは、神経病を思わせる症状を現す。でも、その神経症状は、他の病気が原因になっていることもあり得る。
交感神経とか副交感神経とか、こういった自律神経に関わる疾患は、神経病を思わせる症状を見せる。喉元にある甲状腺という小さな器官は、ホルモンを作って、血液の中に流し込み、全身に行き渡らせる。この甲状腺ホルモンは、自律神経のうちの交感神経を刺激する。
16歳の雑種猫が、夜鳴きをするとのことで来院した。少しやせていて、目はらんらん。待合室でも診察室でも、たしかによく鳴く。品種、年齢、経過、症状から、想起される問題は、甲状腺機能亢進症、認知症、高血圧、脳腫瘍といったところか。血液検査をしてみたら、甲状腺ホルモンの数値が参考基準値を大きく超えて、高く測定された。おおかた、甲状腺機能亢進症で決まりだろう。薬を処方して経過を見ることにした。
と同時に、切り捨ててはならない事柄もある。甲状腺機能亢進症があったからといって、認知症、高血圧、脳腫瘍が否定されたわけではない、ということだ。先ほど挙げた4つの問題は、併存することも、理論的にはあり得る。薬で甲状腺ホルモンを参考基準値まで低下させても、症状が続く場合を常に想定しておかなければならない。
次に行う検査は、血圧測定。そこで高血圧が否定されたら、認知症の精査へ。評価表にしたがって、確認する。最後は脳腫瘍。脳腫瘍については、この段階で、その可能性があることがわかっても、何もしない。検査にも治療にも耐えられそうにないからだ。けいれんなどの症状が現れたら、適切に対処する。ただし、この4つ以外のレアな病気も隠れているかもしれない、なんてことも、頭に入れておく。