高齢の犬でも、特発性てんかんは起こり得るのではあるが、変化を見過ごしてはならない。
セオリーに従えば、高齢犬がけいれん発作を起こしたら、脳腫瘍は必ず疑う。しかし、高齢の犬でも、特発性てんかんは、珍しくないらしい。おそらく遺伝的にてんかんの素質は持っていながら、高齢になるまでたまたま発症しないということなのだろう。
10歳齢のチワワは、9歳齢のときに初めててんかん発作を起こした。反応性発作の除外だけは行って、抗てんかん薬を開始した。反応性発作とは、脳は正常で、それ以外の代謝性や中毒性の原因で起こる発作のことである。その後、発作も大脳徴候もなく、落ち着いていた。大脳徴候とは、行動や性格、歩き方の変化、視覚喪失、聴覚や嗅覚の低下といった大脳の異常に端を発する症状である。この時点では、診断の順位は、2位が僅差かもしれないが、1位は特発性てんかんが妥当だろう。
10ヶ月後、群発発作を起こした。群発発作とは、24時間以内に2回以上起きる発作のことである。てんかん発作の頻度が増えたということだ。抗てんかん薬の用量を増やした。それまで大脳徴候もなかったし、明らかな発作型の変化もない。発作型の変化とは、焦点性発作が全般性発作へ、といったように、発作のタイプが変わることを言う。
発作の頻度が増加しただけであれば、最初の評価のまま、つまり、特発性てんかんとして扱うので、脳の検査は必要ない。抗てんかん薬の血中濃度を測定し、基準値の上限を超えてさえいなければ、このまま経過を見ようと考えた。しかし、そもそも高齢であることと、群発発作が現れたことを加味して、脳MRI検査と脳脊髄液検査に進むことを、飼い主に提案してみることにした。