鳴くヨーキー(恐怖と不安)。
「急に鳴くようになったんですが、認知症でしょうか?」
小さな犬を抱えた飼い主は、診察室に入ってすぐ、こう言った。15歳のヨークシャーテリアが、ちょこんと診察台の上に置かれた。高齢犬が鳴くと言えば、認知症を最初に思い浮かべる。詳しい話を聴く前に、先入観を持たないようにと、質問票を使って、認知症の評価を行った。
13項目の質問に答えてもらい、それを点数化する。合計点を算出して、認知症が疑われるかを評価する。この犬の合計は、2点。16点以上で初めて認知症を疑えるので、その可能性は、現時点では低いと考えられた。では、急に鳴くようになった原因は何か。飼い主に話を聴いてみる。
幼いお孫さんが家にいるらしい。どうやら、鳴くタイミングとしては、お孫さんと関わった時が多いようだった。こどもの動きは、おとなでも予測がつかない。突発的かつ力加減の調節がうまくない。扱われ方によっては痛いこともあるだろうし、怖くもあるだろう。
この場合、鳴く行動は、認知症ではなく、お孫さんとの接触がきっかけと考えるのが妥当だ。このときの感情は、恐怖や不安。ご家庭の事情を配慮しながら、できる限り、きっかけを避けてもらうように助言をした。