2 歳の柴犬が激しく口元を掻く。この行動の意味は? きっかけは? そして、放置するとどうなるか?

好きな人に会って、楽しく夢中になれる時間を過ごす。でも、それは永遠には続かない。いずれは離れなければならない。後ろ髪を引かれながら、おとなしく飼い主に連れて行かれる。車で出かけるのはウキウキするが、散歩となれば話は違う。絶対に行きたくない。あの怖い場所を通るにきっと違いない。無言の抵抗むなしく、おとなしく歩く。新しい犬が家に来た。緊張する。あっちはなんだかあどけなくて無邪気だ。こっちに近づいて来る。どう接していいかわからない。おとなしく臭いをかがせる。

物分かりはいい方なのだ。騒ぎ立てて場を乱すことがない。感情は表に出さず、体はされるがまま。こういうとき、2つの相反する感情が混在することになる。本音ではこうしたいのに、そうできない。そうしたくないけど、こうせざるをえない。多くの犬は、嫌だという気持ちが湧き上がると、ストレートに反応する。露骨に嫌がる。その一方で、平静を装う犬もいる。この平静を装う態度は、飼い主に従順な犬ほど顕著だ。打ち忍ぶのである。

欲求不満と冷静は中和しない。赤と青を混ぜても紫にはならないのだ。煮えたぎる赤は、赤のまま悠々たる青をまとうのだが、そのうち限界が来て、青の隙間から赤が流れ出る。2歳の柴犬は、きまって葛藤を感じているように見えるシチュエーションで、ある行動をとる。手で激しく口をかくのだ。甲高く声を上げることもある。当然、口の中には何もないし、触っても痛がらない。抱えきれない矛盾が、こらえきれずにグワーッと突き破ってくるのだ。

理性的でいられるはずがないのだから、そうして現れる行動の見た目に、たいした意味はない。なぜそうするのかを考えることの方が大事だ。複数の事例を細かく聴取し、状況を整理して、共通点を探す。そこに文脈が見えてくるのであれば、行動学的問題だ。脈絡がなければ、てんかんなどの神経疾患を疑う。この柴犬の行動は、転位行動だろう。放っておけば、常同行動や常同障害へ伸展する可能性がある。今から取り組める対策を飼い主に伝えた。