目の色を変えて吠え続ける犬。この興奮をどう鎮めるか。素質や特性をつかんで、適切な薬物療法を施す。

犬が吠え続ける、興奮し続けるといったように、ある行動が許容範囲内でおさまらずに、異常なまでに持続してしまう場合、脳内の一部の神経回路の異常が原因であることが報告されている。動物が何かの行動を起こすときには、神経の細胞に電気が発生して、それが神経回路を流れる。正常であれば、そのうちその電流は消える。だが、その電流が消えなくなることがある。消えずにそのまま回路を回り続ける。言ってみれば、アイドリング状態だ。

2歳のボーダーコリーは、とても活発だ。駐車場に車が到着すると、開かれたドアから勢いよく白黒の躯体がなだれ降りてくる。まっ先に病院の玄関に走り込んでくる姿は、そこが草原ではないかと錯覚するくらい、颯爽としている。両手を広げて迎え入れると、その場であお向けになって、おなかを撫でろと、せがむ。実にフレンドリーだ。だが、きびきびしている。鋭い感覚も持ち併せている様子がうかがえる。

診察室内では、せわしなく、ウロウロ。そこで、わずかな物音が聴こえたり、窓の外に人影が見えたりすると、急に目の色が変わる。興奮し、聴こえた方、見えた方に対して、吠えが始まる。延々と続く。彼女にとって、聴覚や視覚の刺激がスイッチなのだ。スイッチが入ると、一気に頂点に達する。載せているエンジンがロケット並みだ。大気圏を超えるかのように、目の奥は、はるか彼方だ。こういうときは、声を掛けても届かない。首輪に手をかけて、動きをなんとか制御して、こっちに戻って来るまで、静かに待つ。

きっと、視覚と聴覚が敏感すぎるのだろう。加えて、神経回路内でブレーキをかける成分が少ない可能性も考えられる。まずは、この鋭い感覚を鈍らせてあげる。そして、ブレーキがかかるように働きかけてあげる。それぞれに対して投薬を始めたところ、次第にあっちへ飛び立つ頻度は減った。自宅でも、落ち着いていることが増えたそうだ。ただし、彼女の能力を決して否定してはならない。しかるべき場所であれば、しっかりと仕事をするだろう。優秀な牧羊犬が、都市で人間と暮らす。折り合いをつけるための、こうした工夫が大切だ。