抗うつ薬を減らして現れた離脱症状。その対処をする中で、思いがけず出会った別の薬。犬の尾追い行動を緩和できた。

安定させるまではひと苦労なのに、その安定した状態は、ちょっとしたことで一瞬にして崩れ去ってしまう。神経に作用する薬剤には、すぐにはやめられないものがある。それは、突然やめると、急激に悪化するからだ。抗てんかん薬や抗うつ薬の中には、そういった薬がいくつかある。離脱症状とか、退薬症状とか、禁断症状とかいうふうに呼ばれる。

抗うつ薬で、尾追い行動が安定していた犬。1年が経過したので、飼い主の希望もあって、減薬を検討した。一般的に、なぜ減薬を考えるかというと、効いていない、内臓への負担を避ける、経済的な事情、薬を飲ませ続けることそのものへの抵抗、といったことが挙げられる。効いていないことはなかったが、理由はさておき、このケースでは、薬を半減した。数日後、とたんに症状が再発した。しかも、最初のころよりも強くなって。

尾を追う行動は激しさを増し、追うだけでは済まなくなった。歯をたてて、自らを傷つけたのだ。太ももから血液が流れた。その犬の様子が今までになく壮絶だったのだろう。飼い主は危機感を覚えて来院した。減薬した薬の量をすぐに元へ戻した。しかし、効果が現れるまでは、時間がかかる。別の薬を併用することにした。鎮痛薬である。太ももの傷口は痛いはずだ。だが、もうひとつ気になるのは、腰や尾のあたりに痛みがそもそもあるのではないかということだ。最初のころから、もしやと怪しんでいたが、尾追い行動のきっかけとなる原因のひとつに、腰や尾の神経の障害があることが知られている。もしかしたら、以前からそれもあるのかもしれないと疑っていた。

行動学的問題とともに、潜んでいるかもしれない神経疾患。鎮痛薬は、そういった潜在的な疾患にも効果があると踏んで、処方した。とても良くなった。しかもすぐに。抗うつ薬よりも、むしろ、この鎮痛薬の方が、飼い主からすると好印象だった。抗うつ薬を減らす中で現れた離脱症状には、慎重を期さなければいけなかったが、思いがけず、別の、より効く薬に出会えたことはよかった。調子が安定を保っているので、この薬剤の組み合わせを続けている。いずれは抗うつ薬から鎮痛薬へのシフトチェンジをしていくかもしれない。