認知症の犬が感じる不安感。それを見て飼い主が感じる不安感。悪循環を断ち切るために、犬の薬物療法とともに飼い主の心のケアも欠かせない。

夜中にずっと息切れをしていたという犬。呼吸器系の症状は深刻な事態を連想させる。しばらく前からなんだか様子はおかしかった。ストレスに弱くなっているような気がしていた。聴診で肺や心臓に異常音はないし、レントゲンでも胸の中に問題はない。歯茎の色も悪くない。発熱もない。呼吸が早くなる明らかな要因は見当たらない。

自宅で飼い主の後を追うようになっている。分離不安を思わせる行動だ。診察台の上でも息が上がる。性格は穏やかで我慢強かったはずだ。この犬の様子を見て不安感が増しているのかもしれないと思った。高齢だ。認知機能はどうなのだろうと疑問がよぎって評価表を持ち出してスコア化してみた。結果、「軽度」の認知機能不全に該当した。

高齢になると犬は様子が変わる。これは多くの飼い主が日常的に薄々感じていることで、今まで大丈夫だったことが怖くなったり、我慢できていたことができなくなったりしてくる。脳の前頭葉の萎縮で見られる症状だ。“本性”が現れる。逆を言えば、不快に感じていることをストレートに表現してくれているとも受け取れるので、体や環境のどこかに不具合があるのかもしれないと気づかせてくれる。そして、改善の余地がないかを考えるきっかけになる。

手始めに不安感を軽くする薬と認知症用のサプリメント。そして飼い主に伝える。息切れのように見える症状は、認知機能が低下して不安感が増しているから現れている行動で心配はないと。少しずつ安定してくる。事情を飼い主が理解して、飼い主自身の腑に落ちることが必要だ。飼い主の不安感は犬に伝染する。それがまた犬を不安にさせる。犬の不安感を下げるとともに飼い主の不安感も払拭する。