犬のハエ咬み行動の診療には時間がかかるし、確定も難しいことが多い。焦らず、細かく、犬の行動を観察すること。

飼い主が差し出したスマートホンの画面には、1歳のボーダーコリーが映っている。場所は飼い主宅のリビング。ソファの上に乗って、天井を見上げている。頭を左右に振り、何かを目で追いかけているように見える。時折、パクッと口を動かしているようにも見える。今回の相談内容の一つは、この行動だった。

このような、宙を気にしてキョロキョロする行動は、星を眺めているように見えることから、スターゲイジングと呼ばれる。加えて、パクッパクッと、その見つめている先を口で捕らえようとする行動が見られるときは、ハエを捕まえているように見えることから、フライキャッチングとかフライバイティングと呼ばれる。

当院を受診する以前、この犬には、抗てんかん薬が処方されていた。その表現が星だろうと蝿だろうと、いずれにしても、この行動の原因は、大きく6つのカテゴリーに分けることができる。そして、診断を確定するために、4つの行程を経る必要がある。当の犬は、診察室内では変わった様子はない。嬉しそうにウロウロして、みんなに万遍なく愛嬌を振りまいている。

この犬の行動は、早い段階で神経疾患と捉えられていたようだった。個人的な印象としては、聴覚と、持って生まれたそもそもの行動に鍵がありそうに感じた。もう少し、精査できると理想的ではあるが、諸事情により、厳格な診断手順を踏むことが現実的でなかったことと、抗てんかん薬の使用根拠自体が不明瞭だったこともあり、ひとまず、少しずつ薬の量を減らし、完全に休薬することで、仕切り直しをすることになった。