ふるえは痛み? 不安? それとも…。白い小さな犬がかつて教えてくれたこと。髄膜脳炎のお話。
全身のふるえは、体が痛そうだと飼い主は感じることもあるようだ。来院したときは、当然、緊張でふるえることが多い。そして、その緊張によって、痛いところがあったとしてもなかなかそれを表現してはくれない。動物にしてみれば、それどころではないといった心境なのだろう。本当に痛いのか、不安なのか、怖いのか、それとも、ふるえる病気なのか…。
そういえば、この犬は小さくて毛が白い。「特発性全身性振戦症候群」の言葉が頭に浮かぶ。”ホワイト・シェイカー・シンドローム”とか、”ホワイト・リトル・シェイカー”というふうに呼ばれることもある。重症の場合、極寒の地にいるかのように、全身はガタガタ、口もガクガクとふるえる。うまく歩けずに、足は開いてしまったり跳ねてしまったりする。ついにはバランスを保てなくなった木馬のように、転倒してしまうこともある。
この病気は、髄膜脳炎だと言われている。脳や脊髄を覆う髄膜という膜と、脳自体の炎症のことだ。自己免疫性疾患の一種である。自分の免疫が自分の体の構成成分を標的にして攻撃する。なぜそうなるのか、原因はわかっていない。かつて、白い毛の小型犬に多いとされたが、それは最初に白い犬に観察されたからというだけで、今は毛色は関係ないことがわかっているようだ。
ふるえが痛みや不安、恐怖によるものではないとわかった場合や、あまりにも症状がひどいときは、すぐにでも何とかしなくてはならない。精密検査まで時間をかけていられないと判断したら、見切り発車的に、本当は診断がついてから使いたい薬を先に使ってしまう。結果的にその後の検査で確定診断がつかなくても、救命の確率を上げることができるかもしれない。

