脳腫瘍が認知症の皮をかぶってやって来る。しっぽを出すまで普段の様子と神経の症状を注意して観察する。
認知症だと思っていても、実は脳腫瘍だったといったことはたまにある。発生する場所にもよるが、腫瘍が脳を障害する結果、認知機能が低下する。それが最初は認知症に見える。ただし、脳腫瘍だった場合、体のどこかに現在進行形で神経症状が現れていることがある。あるいは後に現れてくる。手足が麻痺する、眼球が揺れる、ふらつく、けいれんする、などなど。
飼い主は認知症と思っていても、こちら側は脳腫瘍を常に疑っている。犬は病院の中でも旋回していることが多く、神経学的検査をしても異常が検出されない、あるいは運動機能の低下も伴っているので、だいたいは評価が難しい。このように、最初は判別がしにくいことがほとんどだが、そのうち他の神経症状が現れて、あらためてやっぱり脳腫瘍だったのだ、となるケースがある。
では、両者が併存することはあるだろうか。認知症と脳腫瘍が併発するケース。聞くところによると、これはときどきあるのだそうだ。だが、脳が萎縮してスカスカの認知症の脳に腫瘍ができたとしても、その腫瘍が周囲の脳神経組織を圧迫することがないので、特段、他の神経症状は現れないようなのだ。結局、認知症を疑う場合、その他の神経症状が現れないかを毎日観察しながら、認知症の対策を地道にやっていく。
でも、たとえ神経症状が現れたとしても、高度な精密検査へ進むことは、当院ではお勧めしていない。調べた結果、案の定脳腫瘍でした、手術しますか、薬で緩和しますか、あるいは手術できる場所にありませんでした、という結末がほとんどだからだ。動物に負担をかけてまでやることではない。認知症であったとしても、その後脳腫瘍がわかったとしても、どちらも内科的に無理なく対応できるようにしている。