ふらつく高齢犬。目の奥に潜む前庭の不調。

ブルブルブルッと頭を振ると、よろよろと千鳥足になる。倒れそうになるところを、あわてて手で支える。昨日よりは眼球の横揺れが少し落ち着いているようで、ほんの少しホッとする。回復に向かっている兆しが見えると、飼い主としても、診療する側としても安心する。皮下点滴や皮下注射をするときに、逃げようとする。顔は左に傾いて、ふらつきは残っているが、手足の反応には異常が見られない。麻痺はないようだ。この様子なら、今の処置を続けて経過を見ていけばよさそうだ。

高齢の犬が「なんとなく様子がおかしい」というようなとき、その異変をうまく説明できない飼い主は多い。はっきりわかるのは、「食べない」とか「吐いている」といった変化だけだったりする。実際に犬の様子を観察してみると、うつむき加減で、立っているのもふらふらとしておぼつかない。たしかに、これを言葉で伝えるのは難しいだろう。

目元をよく見ると、ピクピクとまぶたが動いているのに気づく。顔をそっと持ち上げて、眼をしっかり見てみると、黒目が細かく横に動いていた。眼振だ。眼球の揺れに合わせて、まぶたも反射的に小刻みに動いていたのだった。前庭疾患。乗り物酔いをしているような状態だ。気持ち悪くて食べる気がしないのも無理はない。嘔吐や食欲不振があるのも納得がいく。

前庭疾患の犬を目の当たりにしたとき、原因としておおむね4つのカテゴリーを想定する。そこからスピーディに絞り込むには、中耳や内耳に影響するような外耳炎の既往や慢性呼吸器疾患の有無、そして甲状腺機能の低下といった背景を、日ごろから把握しておくことがポイントになる。定期的な健康診断は、こういったときにとても役に立つ。