てんかん診療の進め方。厳密な診断基準に沿いながら、飼い主の感情を組み入れる。現場で役立つカスタマイズ。

1ヶ月間隔で2回、犬が発作を起こしたが、どう考えればよいかとの相談を受けた。てんかんの可能性はあると答えた。他の原因もあるかもしれないが、てんかんではない、とは言えない。他の原因も頭の片隅に置きつつ、経過を見守るのだ。基準からすれば、6ヶ月に2回以上の発作が見られた場合は、てんかんの疑いがある、と考える。そして、手順に沿って原因究明した方がいいのではと、飼い主にアドバイスをする。獣医師としての責務があるので、検査をしなくてもいいですよ、とは言えない。

ただ、飼い主の気持ちもある。てんかんかもしれないが、検査のために、犬にあまりストレスをかけたくない。てんかんだとしても、症状は軽いようなので、薬を飲ませるのは抵抗がある。といったように、それぞれの思いがある。ひとまず、今後の発作の頻度とその持続時間をチェックしておいてもらう。発作が繰り返される、あるいは、一回の発作の時間がとても長い、と言った場合には、最低限、血液検査をして、薬物療法を始めるかどうかを決めてもらう。この場合、薬による副作用よりも、発作を止めることの方が優先される、それくらい命にかかわることなのだという事実をわかってもらうようにする。

一方で、このまま発作がしばらく起きないこともあり得る。先のことはわからないが、そうである以上、今の段階で薬物療法を始めることは、飼い主の心情としては、ためらわれるだろう。かと言って、何もしなくていいのか、何かできることはないか、と考える飼い主の気持ちもわかる。ここで、サプリメントやフードを紹介する。これらは補助的な手段ではあるし、発作を起こさない保証はないのだが、提案する。加えて、万が一、発作が起きたときに対応できるように、鎮静剤の点鼻薬を処方し、常備しておいてもらう。

こうして、次にいつ起こるかわからない発作に身構える。発作が起きてしまったときは、落ち着いて動画を撮影する。多くは1~2分くらいで治まるはずだから。3分以上続くときは、点鼻薬を使って鎮める。その後に、動物病院を受診する。おおむね3ヶ月以内の再発であれば、薬物療法を始めた方がいいだろう。診断基準は、学術的に確立されているのだが、現場ではなかなかその通りに進めることが難しいこともある。そういうときは、飼い主の感情を組み入れて、それぞれにカスタマイズして、落としどころを見つけていく。