1剤ではコントロールができなかった特発性てんかんの犬。2剤、3剤と微調整を重ねて、1年かけて安定させた。
診察台に四つ足で立ったまま、ボーっとしている。ハチの広い、短毛でフォーンのチワワは、少しだけユラ~っとして、今にも眠ってしまいそうだ。触診していれば、その刺激で目は開くが、手を離して飼い主と話していると、いつの間にか目を閉じている姿が視界に入る。
けいれんの投薬治療を施されていたが、飼い主は思うところがあって、当院にやって来た。てんかんの投薬治療には、スタンダードがある。この犬には、2ヶ月間、とても多い用量の薬が処方されていた。2剤を併用していて、片方の用量が多すぎたようだ。どのタイプのてんかんを想定して処方されたものかわからないが、ひとまず、過量の方をやめて、標準量の1剤だけにした。
当院としては、特発性てんかんと仮診断しての処方だ。その後、血中濃度を測定して、薬用量が適正の範囲内にあることを確認した。目標は、3ヶ月に1回以下まで、発作を減らすこと。しかし、経過観察中、すぐに発作が起きたので、急遽、1.5倍量に増やして、さらに、別の薬剤を補助的に追加した。同時に、大学病院でMRI検査と脳脊髄液検査へ進む手続きをした。結果、特発性てんかんが確定した。
投薬を継続していたが、間もなく発作が起きたので、最初に過量に処方されていたものと同じ薬剤を、標準量で追加した。こうして、3剤を併用することとなった。安定した。それから3ヶ月間、発作は起きなかった。ところが、飼い主によれば、3剤を朝晩飲ませることが大変になってきたとのこと。ここで、薬剤を減らすことを検討した。しばらく発作は起きていないし、今なら、ということで、2番目に追加した補助的な薬剤を中止した。
それから6ヶ月、1番目と3番目の薬で発作がない状態を維持できるようになった。実は、用量は違うが、当院にやってきたときに服用していた薬と、同じ組み合わせの薬に行き着いた。それでも、ボーっとはしていない。愛犬を日々観察し、通院してくれた飼い主の努力の賜物である。投薬治療は、スタンダードを軸にして、微調整に微調整を重ねる。主作用と副作用のバランスがうまくいくかどうかは、ともに取り組んでくれる飼い主の姿勢にかかっていると言える。