アジソン病でふらついているのかと思ったら、爪がすり減っていてピンと来た。高齢の中・大型犬。忘れてはいけなかった、腰仙椎の異常。

アジソン病で通院している、高齢で中型の雑種犬は、立ち上がるときに、ふらつくとのことだった。定期的に血液検査で電解質を測定し、副腎ホルモンのバランスが大きく崩れていないことは確認していた。それでもふらつきがときどき現れる原因を特定することができなかった。

ある日、診察台の上に乗せたとき、ちらっと見えた右の後肢の爪に違和感を覚えた。4本あるうちの内側と外側の爪は長いにもかかわらず、真ん中の2本の爪は、短かった。爪の色が白なので、ピンク色の爪床の部分がよく見える。爪の長さは、爪床ぎりぎりの長さだった。歩くときに、爪を地面に引きずっている証拠だ。左後肢も同じように、真ん中の爪2本が短かった。

左右両方の後肢を引きずるということは、第3胸椎から後ろの脊髄の異常だ。正確な神経学的な評価が難しいが、後肢の筋肉の緊張が低下しているような印象があったので、脊髄の異常は、第4腰椎から後ろかもしれない。馬尾症候群か。中・大型犬では、脊髄は第6腰椎付近で終了するが、その先は、脊髄から枝分かれした末梢神経が後ろへ伸びている。その形態が馬の尻尾のように見えることから、そう呼ばれる。

腰椎やその後ろの仙椎が狭くなったり、安定性がなくなったりして、この馬尾が圧迫されて、麻痺やしびれ、ふるえが起きる。先天性や腫瘍もあるらしいが、加齢に伴って、腰仙椎の周辺の靭帯が変性したり、椎間板が突出したりすることの方が多いようだ。性格的にデリケートな犬なので、触診もままならず、レントゲンを撮るのも大騒動だ。アジソンも変性性腰仙椎狭窄症も、どちらも邪魔しない保存療法で、維持していくことにした。