犬のハエ咬み行動をめぐる誤解と真実 ― その行動、ホントに ”てんかん” なの? ―
犬のハエ咬み行動はとても認知が広がっている。個人的にはそんな肌感覚がある。情報収集をしっかりしている飼い主が増えたことは、その要因の一つだろう。しかし、この行動は、ほとんど直感的にと言っていいほど、ある疾患と結び付けられる傾向がある。それは、てんかんである。
「ハエ咬み行動=てんかん」。この等式がネット上でよくヒットする。それらを見た飼い主は、この等式が成立してしまうのだろうかと不安を抱きつつ、犬とともに当院にやってくる。そんな飼い主を前にして、神経病と行動学的問題の両方を扱う獣医師がまずやることは、この等式について熱く語ることではなく、これがすべてではないことを理路整然と伝えることである。
結論。ハエ咬み行動は、おおむね消化器系の異常を発端とする行動学的問題である。「おおむね」と断りを入れているのは、もちろん他の原因も否定はできないという意味である。診断法のうち仮説演繹法を採用する身としては、意識的に慎重を期す。それでも優先順位はトップだ。つまり、消化器系の異常が最も多い原因と考えて差し支えないと、現時点では結論付けられている。
消化器系疾患とは、胃炎、十二指腸炎、逆流性食道炎、胃排出遅延、胃拡張といったところだ。なので、ハエ咬み行動を主訴として犬が来院したら、すぐに抗てんかん薬を処方するのではなく、2位、3位の疾患も頭の片隅に置きつつ、レントゲン検査と超音波検査をして、まずは胃薬や整腸剤を処方するという進め方が妥当なのではないかと思っている。

