超高齢猫のけいれん。鼻のふくらみからリンパ腫を疑った。脳転移しても緩和ケアで穏やかな最期を迎えられる。
薄明りのリビングは、暖気で満たされていた。ストーブから伝わる熱が冷気をまとった体を包んでくれる。目線の先にあるソファの上に、キジ色の猫が毛布をまとって横たえている。ストーブを通り過ぎ、そばまで寄ってしゃがみ込む。毛布の下に手を差し入れて撫でてみると、肋骨がゴツゴツと触れる。痩せた。もともと小柄だったが、さらにほっそりとしていた。でも、体には温もりがあって、ホッとした。大事にされている。
目はうつろであまり反応はないが、おそらく少し前から服用している薬のせいだろう。もうろうとしている。鼻と右目の間くらいにあるふくらみに気づいたのは10ヶ月前だった。鼻の中に腫瘍ができたのだろうと思った。それは、ときどき血の混じるくしゃみが出始めたときに疑った。さかのぼること3年前だった。けいれんが起きたのが10日前。おそらく3年前に鼻の中に腫瘍ができて、長い年月をかけてじわりじわりと大きくなってきたのだろう。ついに限界が訪れたようだった。
あのとき17歳。そう、この目の前の猫は20歳なのだ。いつだったか、ある薬で一時は症状が治まったので、鼻の中にできたモノは、リンパ腫だろうと考えた。正規の手順を取るのであれば、麻酔をかけて鼻の中から細胞を採って病理検査に出す。同時にMRIやCTで腫瘍の範囲を把握する。結果を待って、放射線治療か抗がん剤治療を実施する…となるのであるが、17歳という時点でこの選択肢は現実的ではなかった。
幸いにして超高齢だったために、腫瘍の成長が著しく遅かったようだ。猫はにじんだような目をして、見るともなくストーブの後ろを見ている。テーブルで向かい合い、飼い主と獣医師が椅子に腰かけている。穏やかな話し声をきっとぼんやりと聞いていたことだろう。外は一段と冷える。冬空の下、教会のようなかわいらしい家のなかで、数日後、小さなともしびは飼い主の気づかぬ間にその光を閉じた。