このフラフラは何が原因? 同時に見られる症状が斜頸や眼振だけであれば、その運動失調は前庭性だ。

14歳の小型犬ミックスは、体の左側を下にして診察台の上に横たわっている。磁石でもくっついているみたいだ。起き上がろうにも吸い付いて離れない。抱き直して右下にすると、もがいてパニックになる。再び左下にすると、静かになる。磁力は相当強いようだ。左下がしっくりくるらしい。もしや?と思い、顔をよく見ると、眼球がゆっくり左に動いて、その後パッと右に戻る。これが延々と繰り返される。

この犬の感覚としては、左に回っているだろう。反時計回りにぐるぐるバットをした後のように。そして、きっと吐き気をもよおしているはずだ。神経学的な評価をするために、前脚と後ろ脚で立たせようと試みるが、フラフラして、支えないと倒れてしまう。千鳥足。酔っ払い歩行だ。評価をするのはなかなか難しい。これは、着地位置の乱れとして表現され、感覚神経の異常を意味する。いわゆる運動失調のことだ。

運動失調は、3つのタイプに分けることができる。その中で、眼振や斜頸という特徴も伴っているとすれば、この運動失調は、前庭性だろう。前庭とは、左右の耳の奥にある器官で、加速とか重力とかを感知する働きをしている。そうして、体の位置のバランスを保っている。高齢になると全身の細胞が衰えていくわけだが、この前庭を構成する細胞も同じように衰えて、結果的に体の平衡をギリギリで保っている状態になる。

なので、ちょっとしたことでそれが崩れると、バランスが取れない、起立ができない、転倒する、といったことになる。ちょっとしたこととは、わずかな変化でも、ということだ。気圧の変化でそうなることもあるし、一見きっかけが何もないのに起きることもある。病気で言えば、中耳炎や内耳炎、甲状腺ホルモンの低下、小脳の前庭に近い部分での異常などだが、トラブルが前庭に限局していそうなら、まずはめまいの薬で回復するかどうかを確認する。