ダックスの本気咬み。薬物療法とトレーニングを組み合わせて、双方の折り合いをつけながら、改善を目指す。
行動診療を始めて9ヶ月ほどが経った3歳のダックスは、診察室の中で吠える頻度が減った。問題とされる行動は、うなる、吠える、咬む。当院で行ったことは、抗不安薬の処方と、吠えていないときにごほうびのボーロをあげることだ。9ヶ月齢のときに受けた去勢手術の後から、下半身を触れられることに対して極度の恐怖感と攻撃性を示していた経緯がある。その対策として、不安感を下げることと痛みを緩和することを目的として、どちらにも効果のある薬剤を処方していた。
この内服のおかげで少しは落ち着いたのだが、完璧とまではいかない。まだまだ攻撃性が強く、人間への危害が大きい。下半身への接触を避けることや、葛藤を起こさせない、体を動かしてエネルギーを発散させるなどの初期対応も同時に行ってもらっていたが、そこには限界があると判断した。そこで、トレーナーさんを紹介した。専門家の手を借りて、アプローチを変える。自宅でのトレーニングが始まった。
トレーナーさんによれば、この犬の場合、問題行動のコントロールの難度はとても高いとのことだった。性格がそもそも過敏で活動的だ。そして、我慢の許容範囲が狭い。怒りと攻撃が繰り出されるまでのハードルが低い。トレーナーさんに任せているので、当院がせめて行えることは、毎月の体調の変化を確認することと、吠えていないときにごほうびをあげることだ。この方法は、トレーナーさんに伝授された。そのタイミングが絶妙だ。少しでもズレてしまえば誤ったメッセージを送ることになる。かえって吠えを助長させかねない。
こうして定期的な診療とトレーニングを続けることになるわけなのだが、果たして行動学的な対策だけで実を結ぶものとなるのか。脳の神経同士を伝達する物質が少ないなどの神経の問題なのであれば、もはや、さらに踏み込んだ薬物療法を施さなければ、前に進まないかもしれない。一方で、薬物は犬の学習能力にも影響するので、トレーニングの妨げにもなり得る。今後の対応をトレーナーさんと相談することにした。