てんかん診断の境界線。意識はあるのに体が勝手に動く。焦点性発作と運動異常症のあいだで。
横たわって全身の激しいケイレンが起きるケースであれば、てんかんの診断はしやすい。一方、体が部分的に異常な動きをする場合、それをてんかんと言っていいものかどうかを決めきることは、なかなか難しい。焦点性発作なのかどうかをどう区別していくかは一筋縄ではいかないのだ。
全身のケイレンは一息でてんかんの診断に行き着く。複数回発作を起こすことが前提としてあるが、それでも判別は比較的容易である。一方で焦点性発作であるかどうかは、いくつかのステップを経る必要がある。それは、意識障害がある、自律神経徴候がある、発作後徴候がある、この3点だ。明確にこの3点が揃うかどうかは個体差があるが、焦点性発作を疑うためには避けて通れない評価基準である。
では、この評価基準を満たさない場合、どんな疾患や異常を想定するのか。これまでここが不明瞭だった。今までは評価基準に照らして合致しないときは、「どうやら焦点性発作の可能性は低そうだ。」で終わっていた。同時に「では何なのだ?」の疑問はずっと残り続けていた。あるいは、それでもてんかんとして対応することが多かったのではないだろうか。
この「何なのだ?」の空白を埋めてくれるかもしれない情報が最近注目されてきている。それがジスキネジアをはじめとする運動異常症である。意識変化を伴わない不随意運動を特徴とする病態の総称であり、言い換えれば、意識は正常だが体が勝手に動いてしまうという、体に生じる変化だ。いくつか種類があって、遺伝性とされているものもあるが、原因が特定されていないものもある。なんだかわからずにスルーされていた、あるいはてんかんではないのにてんかんとして治療されていた、そんな犬や猫たちにかすかな希望が見え始めている。

