脳炎? 特発性てんかん? それとも? 典型的でない症状が見られたときは、決め打ちせず、慎重に見極める。

6歳のマルチーズは、とても元気な性格で、はしゃぐことが多かった。飼い主によれば、何かスイッチが入ると、ヒートアップするのだという。ある日、いつもと同じように興奮した後に、倒れた。震えて口を大きく開けて、叫び声を上げた。体は硬直し、排泄もしてしまった。飼い主にとっては、恐ろしい光景だ。震えや硬直は、けいれんを思わせる。真っ先に頭に浮かんだのは、てんかんだった。

年齢からすると、特発性てんかんも、構造的てんかんも、どちらもあり得る。一般的な検査は済んでいて、そこに明らかな異常はなかったので、内臓疾患由来の反応性発作の可能性は低そうだ。この犬は、それ以来、なんだか元気がなかったり、ぐったりしたり、目がうつろになったりするそうだ。特に寝起きにそうなる傾向があるらしい。決まった状況で見られる症状。ということは、てんかん以外の問題にも目を向けなければならないだろう。

もう一度、発症当時の状況を整理する。てんかんで、果たして叫び声を上げるだろうか。むしろ、声を出せる状態ではないことの方が多い気がする。もしかして、激しい痛みでも感じたか。震えはけいれんではなく、振戦かもしれないし、体の硬直と排泄も、この激しい痛みで、全身に力が入った結果、そうなってしまったのかもしれない。活発に動いたときに、体のどこかを痛めた可能性もあるのではないかと考えた。この出来事の後に続いた症状は、それを裏付けているようにも思えた。

ところが、大学の動物病院での検査の結果、下された診断は、脳炎または特発性てんかんだった。脳脊髄液の中に、多数の細胞が検出されたようだ。これが脳炎の診断根拠。そして、脳の形態に異常なし。これが特発性てんかんの診断の根拠だ。だが、どうも引っかかる。診断書に気になる記載。頚髄の圧迫所見とキアリ様奇形。これがどの程度、症状に関わるのか、大学病院の先生の見解を聞いてみることにした。